全国の蔵元に愛される熊本酵母を作り出した「熊本県酒造研究所」は名プロデューサーだったという事実。

昨今、シーズンごとにも様々な種類が展開されている日本酒。 いっぱい種類があるので、選ぶ楽しみが加わるのも醍醐味の1つですよね。控えめに言って最高。

さて、そんな豊富な種類を誇る日本酒ですが実は元となる酵母は同じだったりするんです。今回は「熊本酵母」を育てている名プロデューサーこと熊本県酒造研究所にお話を伺ってきましたよ!

そもそも熊本酵母ってなんだ

日本酒の原料ってなんでしょ?と質問すると多くの人は「米と…水?」という回答でしょう。

ただそれだけでは日本酒は作れない。

ポイントとなるのは今回ご紹介する「酵母」なんです。 そもそも日本酒の原料は米と米麹(こめこうじ)。米麴が作り出す糖がアルコールに変わり、それを作り出していく立役者が酵母です。 つまりこの酵母がいなけりゃアルコールを作り出せないっていうんですから、それは大事なものなんです。

左 株式会社熊本県酒造研究所 研究室主任 高浜圭誠さん

右 株式会社熊本県酒造研究所 製造部長  森川 智さん

 

「ん?でも、その酵母ってそれぞれの蔵に在中しているものでは?だから蔵ごとに味が違うんだと思ってました」

「いわゆる”蔵付き酵母”ってやつですね。確かにそうなんですけれども、日本酒業界全体で俯瞰した場合「あの蔵は飛びぬけて美味いけど、あそこはそうでもない」なんてバラつきが生まれてしまいます。 そうなると、日本酒業界全体の足並みが揃わない。 なので、品質を一定に保つため協会が認定した酵母を頒布してるんです」

なるほど。 つまりは全国どこに居住していたとしても、同じ教育が受けられる義務教育みたいなもの。そこからどう華を咲かせるのかは各蔵元のチカラという流れです。

そう言って差し出されたのがこの「日本醸造協会雑誌」。

発行日は昭和43年10月15日。約50年前といったところでしょうか。

「この中で熊本酵母が、『きょうかい9号酵母』として紹介されたんですよ」

9号ってことは、もちろんそれよりも前の8号7号…とあるのですが、それらが認定されたのが明治末期~昭和初期にかけて。 それまでは、とにかく安定して供給できるレベルのものをといったことを重視されていました。しかし熊本酵母が認定されたのは高度成長期も落ち着き、一般市民でもお酒をカジュアルに嗜むようになってから。

「つまり、熊本酵母はある程度舌が肥えた豊かな時代に認められた酵母って言えるでしょうね」

専門的な話はさておき。

日本酒造りに酵母が欠かせないってことは分かりました。

しかし。

とはいっても。

熊本酵母の何がすごいのかはまだよく分からないまま。

「まあ熊本酵母を使うと、味がフルーティーになるとかね。色々あるけども分かりやすく言うと、ほんと元気よ」

瓶の底にある白い物体が熊本酵母。

これを

シャカシャカと振ると

シュワシュワと泡立ちます。

「シュワシュワ炭酸みたいになってますけど、これ熊本酵母の力なんですか」

「そう。なんせ元気のよかけん、ほっといたらすーぐアルコール作っちゃう。しかもうちは液体のまんま出しよるもんね」

「なんで?乾燥とかさせた方が持ち運びしやすそうです」

「うーん。例えばね。同じポテンシャルをもった人が2人おるとする。 1人はえちくろて(酔っぱらって)寝とる。あともう1人は「いつでんスタートできますけんね」ってクラウチングスタートで待っているとするたい?」

「はい」

「そん2人に、ちょっとはよきてー!って呼んだときに、どっちがはよ動けて最初からフルスロットルで力が発揮できる?」

「そりゃクラウチングスタートです」

「そのクラウチングスタートが、液体。えちくろて寝てるのが乾燥タイプ。そん違いよ」

 

なるほど! クラウチングスタートで今か今かと出番を待っている状態にするために、昼夜支えているのが、熊本酒蔵研究所の方々です。

出荷の際も、完全密閉にはしないこだわりよう。

日本酒造りは温度が重要であることは周知の事実ですが、こと、ここ熊本は高温多湿な気候です。酒造りの環境下として決して恵まれているとは言えない中で育てている酵母ですから、そりゃどこに行っても元気いっぱいなはずですよ。

だから日本中、どの地方であっても熊本酵母を使用すれば美味しい日本酒が作れる!と評判なんですね。

「どこに出しても恥ずかしくない礼儀正しい酵母ですよ」と、笑いながら語る森川さん。

あまりのイキの良さに保管するときには、寒天につけておかなくてはいけないほど。

熊本酵母とは何ぞや??という基本的な情報はぜひこちらのサイトをご覧ください。

http://www.kumamoto-sake.com/material/yeast.html

 

なんでそんなに元気がいいの

使い勝手の良さ、そして味全国の酒蔵から愛される「熊本酵母」。

 

この熊本酵母の事を24時間365日、想い考え続けているのが熊本県酒蔵研究所の高浜さん。(画面左)

「培養すればそのまま純粋に元気がいい酵母が生まれるってことですか?」

「いやいやいやいや!!!!クローンじゃないんですから培養だからって簡単に元気な子が生まれるって訳じゃないです」

 

培養と言っても

それは一朝一夕でできるようなお仕事ではありません。

 

毎日、濃度が違う培養を行い酵母のチェックを行い

それを何度も何度も繰り返し。

 

その中で「これだ!」と自信をもって出せる酵母が、熊本酵母としてやっと世に出られる。

 

いつデビューしても恥ずかしくない状態まで育て、デビュー後もファンが絶えることないように最善の努力を自らの体力で行えるよう元気な酵母であることー。

 

人間でいうところのアイドルのプロデューサーみたいなものでしょうか。

高浜さんは酵母界の秋元康的なポジションであることは間違いないようです。

 

休憩時間も、酵母の塩梅で決めるという徹底ぶりなんですから、もう高浜さんの日常は酵母が基準なんです。

 

もはや熊本酵母にとりつかれたと言っても過言ではないほどに、酵母愛に溢れまくってました。

 

幾度となく選抜メンバーの選び方について方針の共有が行われていました。

 

エンドユーザの笑顔を忘れないように

「いい日本酒を造る」

 

日本酒造りに携わっている方であれば、皆が抱く共通の想いでしょう。

「頑張れば頑張るほど、どんだけ苦労したのかってつい語りたくなってしまいます。けれど我々が本当に考えなきゃいけないのってエンドユーザーにどうしたら笑顔で呑んでもらえるのかってことですよね」

と話しておられた顔が印象的でした。

 

ずっと昔から受け継がれてきた日本酒を造る側ができること。

 

それはきっと購入してくださるファンの方を裏切らないように美味しいものを作ること。これに限るんです。

 

その想いを引き継ぐように、そして途絶えないように酵母を毎日丁寧に育てておられました。

 

決して表舞台にたつことはなくとも

間違いなく日本酒造りに大きな影響を与えている「酵母」。

毎日毎日懸命に酵母と向かい合っている姿はまさにプロフェッショナルでした。