ないと物足りないものって色々ありますよね。
例えば刺身のツマ。
例えば日常での音楽。
例えば花束でのカスミソウ。
「メインにはなれない」なんて比喩されがちですが、今回の主役はこのカスミソウ。
なんとカスミソウから酵母を取り出したお酒が販売されているんです。
そして何よりも、このプロジェクトに関わる人、皆凄すぎたのでぜひご紹介させてください!
日本最南端にある蔵元【亀萬酒造】
やってきたのは鹿児島県との県境にある日本最南端の蔵元、亀萬酒造がある熊本県津奈木町。
日本酒造りで重要な作業の1つがもろみの温度管理なんですが、外気温が高いことに加え発酵のさいに温度が上昇してしまうので
亀萬ではたくさんの氷を加え温度を調整する「南端氷仕込み」という独自の手法をとっています。
自家製の氷をジャブジャブ入れるその姿は、津奈木町の冬の名物とも称されているんですよ。ぜひその姿を見たかったのですが取材で訪れた時にはもう仕込みも終了。残念。次こそはぜひ。
カスミソウの日本酒ってなに?
今回お話を伺ったのは、亀萬酒造 3代目代表取締役 竹田珠一さん。
「カスミソウに酵母があるってことすら初めて聞きました」
「そうですね。ただ酵母を培養して取り出したのは私じゃないですよ!?東京農大で研究されている方」
大の日本酒好きなJA菊池の理事長三角さん。(写真中央)
菊池の名産であるカスミソウを使い大好きな日本酒ができないものかと、東京農大でカスミソウの研究をされている方へ相談したのが始まりでした。
「バラのプリンセスミチコで酵母が取れたって聞いたもんですから。じゃあカスミソウでもできるのではないかと思ってご相談したんです」
とはいえ、品種も違えば花のサイズ感も全く異なるわけですからそんな簡単な話ではありません。
それこそ何万分の1の確立で酵母が取れるか取れないかという世界の中、やっと採取できたのが令和3年4月2日。実に2年半かかりました。
確実に酵母が採取できると分かっていれば待てなくもない時間ですが
本当に採れるのかどうか先行きが見えないなかでの2年半。
日本酒とカスミソウ愛があったからこそじっとこらえられた期間だったのかもしれません。
「材料はオール菊池にこだわったのでお米も水も菊池のものを使用しました」
「いや米はともかく水も?どうやって?」
「運びました。酒蔵まで」
使用しているのは菊池の前川水源のお水。
これも杜氏である竹田瑠典さんと一緒に回って「これなら合う」とやっと見つけたお水だったのだとか。
気になるお味は純米吟醸なので、フルーティーながらもすっきりとした甘口。
1本2000円。JA菊池で購入可能です。
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はじめての酵母
カスミソウの酵母自体、はじめてのものなんですから、それを使ってのお酒造りももちろん手探りになってくるのは必然。
「通常の日本酒造りと比較していかがでした?」
「全然違う!!」
まず発酵のスピードが従来のそれとは比較にならないものだったのだとか。
「大体もろみは10度~11度で管理しているんですよ。この温度だと通常泡が出ないはずなんです」
「はい」
「ところが泡がもうブクブク。そして…」
「そして?」
「なんかお花のいい香りがした!」
言葉だけ聞くとなんだかロマンチックですが、実際はそんなロマンチックな話ではありません。
泡ってなんだと想像がつかなかったので当時の写真を見せてもらったのがこれ。
あら!想像以上のブクブク!
「これは驚きますね」
「そうでしょ。だからね、ほら水を足して温度を下げてみたとよね。糖化が進んで発酵せんけん」
この「追水」と記載されているのがそれ。
酒造りに携わっている人であればこの数値はきっと二度見するレベル。
「ばってんね、水を入れても泡が止まらんし…思いましたよね。」
もう投げ出そうかな。って。
創業106年の亀萬をもってでも「ちょっとこれは失敗に終わるのではないか」と不安な日々だったんだそう。
「自分はワクワクしてましたね。ずっと。」
先に話したように、亀萬があるのは津奈木町。
対して今回のお酒は菊池。
熊本の土地感があられる方はお分かりかと思うのですが、近くないんですよ。むしろ北と南でめちゃくちゃ離れている場所なんです。
「そういえばなぜ遠く離れている亀萬に今がきたのがきたのでしょう」
「東京農大が私の母校だからですね」
加えて叔父にあたる方も醸造の教授をされているご縁があって、今回依頼されたんだそう。
「だから失敗できないというプレッシャーよりも、どんなお酒になるんだろうって楽しみでしかなかったですね」
新旧混ざり合う
3代目の引退を見越し、数年前から4代目である竹田瑠典さんが作るお酒に徐々に移行させている亀萬酒造。
4代目が作ったお酒が「プラス9」。
「お客さんがね、最近亀萬さんの味が変わったねって言うんですよ。美味しいって(笑)」
「でも昔ながらの味を求められる方もいますしね」
新しい切り口を見つけながらも、互いを尊重する姿勢がベースにある亀萬酒造のお酒。
親は子を信じて見守り
子は親を超えようと努力する。
攻守絶妙なお味なのも納得でした。
ぜひ亀萬酒造のお酒、試してみてはいかがでしょうか。
えーくらい編集長。
得意なことはハエ叩きです。